「取り返しのつかないものを、取り返すために 大震災と井上ひさし」
2011年9月4日に行われた「鎌倉・9条の会」主催による「憲法のつどい2011 鎌倉」での講演を加筆収録したブックレット
。
「9条の会」のよびかけ人のひとりである井上ひさしさんが亡くなってちょうど1年にあたる日だったため、氏ゆかりの方々による講演会が開かれたそうです。井上さんは東北のご出身であるため、大震災の惨禍のあとをどう生きるか、井上さんが遺した言葉とともに考える場となったようです。
まず、経済評論家、内橋克人氏「不安社会を生きる」。「がんばろう日本」「日本の力を信じよう」などという「ひとごと」的空疎な言葉の裏で、いったい何が進んでいるか、鋭い感性を働かせよう、とおっしゃってます。「原発安全神話」については、わたくしの年代では、学校で「原発は安全」などという教育を受けた覚えはないので、最近のことなんだろうけど「原子力わくわくランド」って…。こんなセンスのカケラもないヤツラにわたくしたちは洗脳されてたのか。ガッカリだ
。このほか、神話を徹底させる戦略として、メディア、ジャーナリズムに対するブラフ(脅迫)があげられています。これほどまでにしつこく、しつこく、しつこくメディアシフトが敷かれていた、というのもわたくし、知りませんでした
。それだもん、まだ生きてる中曽根康弘氏を原発問題で表に引っ張り出すなんてことが出来るわけがないわね
。そしてもうひとつが、有名人を使ったパブリシティ。そういえば広告、たくさん見たなぁ。わたくしの好きな俳優さんたちもテレビコマーシャルに出てたし~
。あ~ぁ
。このような「PA(Public acceptance)戦略」は、戦前の軍国主義を彷彿とさせるらしい。『私たちは、敏感に感性を研ぎ澄ませ、これからの時代に備え、今回の巨大複合災害に子細に心を寄せながら、同時に、神話を形づくってきたものへの糾弾を避けてはならないと思います。救援と糾弾は平行して進めなければなりません。救援が先である。もちろん、そうでしょう。けれども、そのことによって、いま進められていることの本質、あるいは政治のこれまでのようなやり方にたいして糾弾の目を向けないというのであれば、おそらく私たちの社会では、まったく同じようなプロセスを経て、九条も、憲法も、(TPPも)同じ運命をたどることになるでしょう。私は、そのことを恐れます。』知らないということはオソロシい…
。
でも、じゃあわたくしたちフツーの人間はどうしたらいいのか?勉強した、本質をある程度理解した
、今のままではいかん
、では、次にどうしたらいいのか、実はここんところを教えてくれる人がほとんどいないのよね
。内橋さんたちは、阪神大震災の時、市民・議員立法の運動を立ち上げたそうです。それでも満足な法律が出来ない。ったく、この国は本当に議会制民主主義国家なのか?実は未だかつて誰ひとり正しくそれを理解し、運用したことなんかないのではないか。日本って、ほんとは国家ですらないのではないか、単なる出来の悪い寄り合い所帯だったのではないか、って最近よく思うのよねぇ~
。
あとは、結局何を言いたいんだかよくわかんなかった「こころ医者」なだいなだ氏と、「言葉」というものに真摯なこだわりを見せる大江健三郎氏の講演。大江さんの、こどもの頃、お母さんと憲法の言葉について話をした逸話がとってもステキなのよね~
。いかにも文学者の感性ってカンジで
。
最後に、小森陽一さんが引用した井上さんの『吉里吉里人』の文章を孫引しておきましょう。『日本国の、五十代以上の人間たちよ、若くして死んでゆかねばならなかった同年代人たちの、あの呻き声をもう忘れてしまったのか。いや、おぼえているはずだ。おぼえているからこそ一度は《平和》を国是とした新国家を作ろうと決心したのではなかったか。その決心はどこへ失せてしまったのか。仕事の忙しさにかまけ、毎日の豪奢な消費生活に溺れて不幸な同年代人たちの悲痛な呻き声を忘れてしまった思い上がって成り上がった人間たちよ、ひとつだけでいい、思い出しておくれ。大日本帝国は補給がなっていなかったから敗けたという事実を。無資源国だから近代戦には向いていなかったという事実を…。兄弟たちよ、われまことに汝らに告ぐ。日本国は職業的軍隊を組織して、その軍隊が重装備をして守り切れるような、有資源国ではないのだ。分をわきまえよ、兄弟たち。もろもろの資源に恵まれ、食料自給率の高い、自立せる経済大国であるかのような、途方もなく図々しい幻想を、おのが祖国に抱いてはならぬ。すべての思い上がった幻想を捨てよ。日本国が、よく働くことが取柄の人びとの住む、小さな小さな資源小国であることを正視せよ。』
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