「幼少の帝国 成熟を拒否する日本人」
芥川賞作家・阿部和重氏著。新潮社のPR紙「波」での連載をまとめたもの。面白かったです~
。
国内外で指摘される「成熟を拒否する日本」像を独自の視点で解読したものなんだけど、連載途中で起きた東日本大震災によって色合いがバラけた印象があります。でも全体の流れとしては、あとがきでも書かれているように、最終的には『こうでしかあり得えなかったのかも知れない』ところへ辿り着いた感がありますね。
日本人が「幼少」であるのは、戦後のある写真のせいだという仮説はすっごく面白かった
。その写真というのが、GHQのマッカーサーと昭和天皇とのツーショット写真。掲載された新聞が政府から発禁にされたという。『日本国民そのものはどんなに小さかろうとも、天皇だけは絶対にデカくなければなりません。当時の天皇感からすると、最低でも通常時で身長五メートルくらいはあって欲しい。ところが実際には、単なる毛唐の親玉に負けてしまっている。』『わたしたちの神様はちっちゃかった。』この事実に、日本人は心底ショック
を受けて、己の崩壊を防ぐために「ちっちゃいことはいいことだ」というテーゼを追い求めることになった。それが現在のサブカルの大隆盛とひいては飛躍的な経済成長
につながったのではないか、と言っています。コレッ、ゼッタイそうだッ
「成熟拒否」の一例“なのかもしれない”物事として検証されるのが「アンチエイジング」や「小型化技術」、「デコトラ」や「ニチアサキッズタイム」。それぞれの分野における専門家への取材を通して、日本の「成熟拒否」を支えるものが、実は「老練な職人技」
であった、というまことに慧眼
な指摘があるのですよ。オモシロ~
。
そして、このなかで特に面白かったのが「ニチアサキッズタイム」の章。「ニチアサキッズタイム」とは、テレビ朝日系列で「子供向け」番組が放送されている日曜朝7時から9時までの時間帯のことで、この章では、筆頭スポンサー・バンダイによるCMD(キャラクターマーチャンダイジング)について、番組制作の東映テレビから商品化権営業部長、バンダイのボーイズトイ事業部から2名の責任者が登場してその内情が語られています。もんのすごく興味深いです
。子供を相手にした仕事をする、という真剣勝負ッ
「子供だまし」なんて最もあり得ない
。ここでも、本物のオトナじゃないと成立しない世界があったのでした
。
で、この「こどもだまし」が原発問題にも繋がっていくわけです。日本国民をバカにして「こどもだまし」を続けたあげくの事故。『そしてあの政府と官公庁と電力会社しか持ち得ず、さらには不備だらけの原発政策の推進役だった前与党の連中に取り囲まれたわたしたちの現状を鑑みると、この国は、原発を安全に運用する能力を欠いているとしか思えません。その意味では、わたしたちは、原子力を有効活用する資格を失ったのだと言えます。』ズバッと書いてくれて、スッキリ
。
その後の「日本のエネルギー政策の未来」の章で登場するエネルギーマネジメント会社・エナリスの社長の話には、まったくその通りだと共感する部分と、生き方に関わる部分で、えー、そーかなぁー
?と疑問視したい部分と相半ばしましたね。エネルギーのスマートグリッド化についての話の中で、インターネットの匿名性について出てくるんだけど、もはや技術的には匿名でいることには意味がない、だから常に自分は公人であるという認識を社会の成員全員が持てばいい、と実に簡単におっしゃる。さすが、金融界やら政界を泳いでいらしただけのことはあるわね。まぁ、パナ○ニックなる会社に一時期身を置いていた、というあたりがもーどうにもなぁ
、ってのはわたくしの単なる偏見です
。ウシシ
。
震災後、この本のとりあえずの結論としては、超少子高齢化を迎える日本が「成熟拒否」(戦後日本が生き抜くための戦略)を貫くために今後取るべき道としては、元々の日本の「異種交配(ハイブリッド)」に立ち返るしかない、ということのようで。異国のものを取り入れつつ独自に改良して自分のものにしてきたのが日本という国なのだから、今後は移民も上手に取り入れて「小型化・省エネ化」を機軸にした混在や調整で、新しい「成熟拒否」現象を起こすような知恵を生み出すしかないのではないか、と。う~ん、それを実現するには、それこそウルトラC的熟練技を持つオトナがいっぱいいないとムリなんじゃない
??
さて、本筋とは全然カンケーないところで狂喜した一文。『コレステロール値が高いと動脈硬化にはなりやすいのですが、癌にはなりにくいのです。癌になりにくく、動脈硬化にもなりにくいというちょうどいいレベルが、昔の健康診断で動脈硬化になるかどうかの境界線ぐらいの数値です。』コレ、わたくしデス
。
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